バツ印から始まる子どもの力

完璧を求める現代の子育てへの警鐘

· 塾長の指導観・雑感

那須塩原市西那須野の高校受験・大学受験塾 本松学習塾塾長のブログ

私たち指導者は、子どもの「バツ印を消そうとする行為」をどう受け止めればよいのでしょうか。
 

長い指導歴を振り返ると、間違えた問題を、こっそりと消して書き直し、マルをつけている子がたまにいます。

一見些細な行動に思えるかもしれません。しかし、私はここに現代の教育が抱える本質的な課題を見た気がしています。

スマートフォンの画面は「削除」や「やり直し」が簡単です。SNSの投稿も、気に入らなければすぐに消せます。デジタルネイティブの子どもたちにとって、「間違いを消せる」というのは、むしろ当たり前の感覚なのかもしれません。

 

しかし、実社会はそう単純ではありません。

間違えた問題に自分自身でしっかりとバツをつけることは、大切な自己否定であり、成長するための重要なステップです。

当塾では、生徒に間違えた問題には必ず印をつけさせ、テスト前にはその問題をやり直すように指導しています。これは単なる学習管理ではありません。自分の間違いに正直に向き合い、それを認める勇気を育てる大切な過程なのです。

なぜなら、「バツをつける」という小さな自己否定の経験が、将来の大きな挑戦に向けた土台となるからです。失敗を恐れず、それを乗り越えていく力は、このような日々の積み重ねから育まれていきます。

実際、厚生労働省の若年者雇用実態調査によると、新入社員の早期離職の要因として「仕事上のプレッシャー」や「失敗への不安」が上位に挙げられています。また、国立教育政策研究所の調査では、「間違いを恐れる傾向が強い生徒ほど、新しい課題への挑戦を避ける傾向がある」という結果も出ています。

つまり、小さな間違いさえ受け入れられない子どもは、将来、より大きな挑戦から逃げてしまう可能性が高いのです。

間違いを隠そうとする生徒の姿には、実は現代社会の縮図が映し出されているのかもしれません。

SNSでは誰もが完璧な自分を演出し、少しでも欠点があれば修正や加工で消し去ることができる。

そんな環境で育つ子どもたちにとって、「バツ印を素直に受け入れる」ということは、想像以上に勇気のいる行為なのです。

私たち大人だって、全ての答えを知っているわけではありません。むしろ、失敗や試行錯誤の繰り返しの中で、少しずつ成長してきたはずです。
 

子どもたちに必要なのは、「間違えない子」になることではありません。

「間違えても立ち直れる子」になることです。

そのためには、私たち大人が「小さな失敗」を受け入れ、それを成長の糧に変える手助けをする必要があります。

完璧な正解を求めすぎる現代だからこそ、「バツ印を受け入れる勇気」を育てることが、子どもたちの未来を守ることになるのではないでしょうか。